《六月四日(火)》目を細め息子は立てり行かざりし雲仙殉教祭の写真に

長崎雲仙温泉の観光名所である雲仙地獄。四百年ほど前、熱湯をかけられたり湯つぼに投げ込まれたりして三十三人のキリシタンが殉教している。知人が送ってくれた今年五月の殉教祭の写真には、制服姿の息子が写っていた。「どうだった?」と息子に聞いたら「硫黄臭かった」とだけ返事があった。

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

  • 6月20日:自転車で梅雨の晴れ間を行きたれど夕べのミサに潤ふわれは
  • 6月19日:ガリラヤのオリーブオイルにズッキーニの黄とゴーヤの緑いためて
  • 6月18日:雨に濡れコンクリートを食べてゐるかたつむりわれはメロンを食べる
  • 6月17日:十字架の上には夏の雲ありてそのさらに上へ心向けたり
  • 6月16日:はつ夏のわれには未知の種となり子は日曜の夜を眠らむ
  • 6月15日:国家とはやはらかく鋭き棘なのか「アンネのバラ」のつぼみ数へて
  • 6月14日:一声の鋭さが棘となり刺さる真昼不遜のわれ翳りたり
  • 6月13日:水筒にどくだみ茶入れてきた午後の油圧マシンの孤独に触れる
  • 6月12日:「虎に翼」見るのかわれらの上告を「不受理」と決めた裁判官も
  • 6月11日:ダンスパーティーと名付けられたること如何に受けとめてゐむこのあぢさゐは
  • 6月10日:代案を切り出さむけれどその前に牛蒡のポタージュひとくち飲んで
  • 6月9日:母であること揺らぎつつ推し量るイエスの母であるといふこと
  • 6月8日:くちなしの香を深く吸ひ留め置かむイエスのみ心聖母のみ心
  • 6月7日:むらさきのため息ついてゐるやうなアガパンサスをひた濡らす雨
  • 6月6日:立ち尽くすのみの可愛いコックさん六月六日に雨降りつづく
  • 6月5日:長崎の息子のぶんも食べてゐるスイートコーンのみの朝ごはん
  • 6月4日:目を細め息子は立てり行かざりし雲仙殉教祭の写真に
  • 6月3日:ホトトギス鳴きやめば不意に長崎の息子が弾けるオルガン聞こゆ
  • 6月2日:渡されてわれにひとつの問ひとなるパンかマスクを外して食べる
  • 6月1日:〈しろくま〉を強く薦める 震災ののちの私を知らない人に

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