《三月二日》彫り跡にオトメツバキの微睡む夕
彼らは今も昔ながらのやり方で、網と勘だけを頼りに文字をすなどる。「時間を計算できる」とする文律庁の考え方を、彼らは幻想だと見なしている。その理由は、時間が零れ落ちた文字は、決して完全には収束しないからだ。文字を捉えた瞬間、それは既に過去のものとして、手のひらから逃れ去る——時間とは、まさにこのように、捕らえようとしたその瞬間に、すでに前に進んでいるものではないか？
著者略歴
１９７３北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』（第８回田中裕明賞）、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
（ヘッダー写真：小津夜景）
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