《十二月三日》枯蔦のくるんとしたとこ好きになるす

星新一の「門のある家」を久しぶりに思い出す。初読のとき、胸の奥がきゅっと収縮して、しばらく呼吸のしかたを忘れた。人生には、こちらの都合など一切きかず、ふと気がつけばもう跨いでしまっている門がある。くぐった後でしか、その門の意味はわからない。気づけば閉じていることもある。あれは、そうした不可逆性についての寓話だったのだろう。今宵の灯りが、その感覚をふっと呼び戻してくれたのである。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 12月3日:枯蔦のくるんとしたとこ好きになる
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