《十月二十七日(日)》こひねがふものをはつきりまつすぐに言ふべし光る雲を仰ぎて

イエスは、「何をしてほしいのか」と言われた。盲人は、「先生、目が見えるようになりたいのです」と言った。

(マルコ 10・51)

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

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  • 10月30日:深海を潜りゆき寒き海底に触れて戻りたるごとく覚めたり
  • 10月29日:大鍋に豆のスープを眠らせてわれも眠らむ夫を待たず
  • 10月28日:ヘンデルのパッサカリアを聴きながら秋にずんずん踏み込んでゆく
  • 10月27日:こひねがふものをはつきりまつすぐに言ふべし光る雲を仰ぎて
  • 10月26日:空爆は学校を狙ひ パンがない 遺体を覆ふための布がない
  • 10月25日:震災に水害にまた選挙にも苦しむと能登の流木映る
  • 10月24日:一枚の秋のガラスの向かふ側まだヤモリゐてわれを励ます
  • 10月23日:候補者の妻として水位たもちつつ湖面しづかに友は立ちたり
  • 10月22日:われよりも年下の橋をわたるとき秋の水さらに冷えてゆく川
  • 10月21日:引き揚げの体験を語りくれし日の澄みて少年のごときはにかみ
  • 10月20日:窓のなき部屋の小瓶にうつむかずコスモス一輪ぶんの献身
  • 10月19日:電卓とそろばんが恋のきつかけとなりて川沿ひの帰り道
  • 10月18日:サーカスが街に来るやうにお祭りの開始に合はせ戦闘機とぶ
  • 10月17日:子に「思想強い」と言はれたるわれは「あんたが弱すぎる」と言ひ返す
  • 10月16日:周囲みな敵と思ひき金木犀濃く香る風のただなかにゐて
  • 10月15日:にんげんに欠如してゐるものとして宵闇あるいは尻尾を思ふ
  • 10月14日:「てんぷらは食べにいくのが一番」と言ひくれし義母はこゑ冴え冴えと
  • 10月13日:秋野ゆく勇気ありけむ若ければイエスを去らむ背中を見せて
  • 10月12日:長崎ゆ農地求めて田野村に来たりし人の分厚き祈り
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  • 10月10日:マンションの袴田さんの窓の秋ねこ二匹同じ窓に伸びして
  • 10月9日:秋雨はメダカたち棲む丸鉢の水面みるみる盛り上げて降る
  • 10月8日:戦争はいまだ終はらず秋曇り新たなるこゑが戦争をよぶ
  • 10月7日:秋なればまた始めたし怠けつつやめてしまつた書道、剣道
  • 10月6日:「試し行動」してゐるやうに夫の買ひし白くま2カップ目を食べ終へぬ
  • 10月5日:拾つたゴミを自転車の籠に入れながら新宗教のやうなもの来る
  • 10月4日:秋空を仰ぎ両手を広げつつ聖フランシスコ像さへづりぬ
  • 10月3日:全世界の全不発弾決起して言ふべし「人よ、落ち着きなはれ」
  • 10月2日:繰り返し息子の愚痴を言ひながら夫と食べてゐるカツカレー
  • 10月1日:背伸びして何を見下ろしたきわれかパンパスグラスに見下ろされつつ

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