《三月二十八日》大翼つばさよぎる下した影かげしらしらと波寄る州しまのしらぬひ筑つく紫し
八尋やひろの白しろ智ち鳥どりなる歌魂うただまは、伊勢国いせのくに能煩野のぼの発たち、河内国かわちのくに志幾しきを経て、さらに天あめに翔って飛んだというから、そのまま西行せいこうすれば瀬戸内海を越えて筑紫の州しまに到ったと考えても、大きな誤差はあるまい。筑紫州つくしのしますなわち九州。したがって右はそこで生れ育った私のいささか時代錯誤の思国歌くにしのひうた。
著者略歴
高橋睦郎(たかはし・むつお)
昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。
詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。
歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)
無断転載・複製禁止