《八月八日》靴下の裏も人生なんだ蚊よ

靴下を裏返しのまま干すと、なんだか少しだけ罪悪感がある。でも、内側が乾いた方がいいのだし、これで正しいのだと思うことにする。裏って、汗を吸ったり、たぶん涙もちょっとだけ吸ったりしている場所だ(いや涙は関係ないか)。そんな場所を見せたまま干しているのは、正直すぎて少し恥ずかしい。でも裏があるから、表もなんとかやっていけるのかもしれない。干されたまま、風に揺れている、ちなみに裏返しの靴下は、案外かわいいのだった。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 8月8日:靴下の裏も人生なんだ蚊よ
  • 8月7日:蝙蝠と梁をわかちて夜しづか
  • 8月6日:夏帽子ふりかへる日は来ない橋
  • 8月5日:風死せりわたし透明すぎるのか
  • 8月4日:海月浮くいにしへびとの袖のごと
  • 8月3日:夕立や水の輪切って踏むペダル
  • 8月2日:夕立やサドルにひとつ空の花
  • 8月1日:片蔭の客は気まぐれ書生ども

俳句結社紹介

Twitter