
《九月十四日》黒塗りの刷毛に月夜茸の匂ひ
大きな荷物をかかえて駅にいたら、背後から「ここ空いてますよ」という声がした。ふりかえると、見知らぬ人がベンチに座り、自分の横を指差している。狭いな、と思ったけれど、善意に圧されて腰を下ろした。と、すぐその人は立ち上がり、来た電車に乗って行った。私のためにほんの数秒ベンチを陣取って、わざわざ場所を確保してくれたのだとわかった。あ、観光客だ、親切にしてあげよう――そう思ったのだろう。
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大きな荷物をかかえて駅にいたら、背後から「ここ空いてますよ」という声がした。ふりかえると、見知らぬ人がベンチに座り、自分の横を指差している。狭いな、と思ったけれど、善意に圧されて腰を下ろした。と、すぐその人は立ち上がり、来た電車に乗って行った。私のためにほんの数秒ベンチを陣取って、わざわざ場所を確保してくれたのだとわかった。あ、観光客だ、親切にしてあげよう――そう思ったのだろう。
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