《十一月二十二日》火の壺を抱き稲干す縄の里

芸術とドラッグは切っても切れない関係にある。でもわたしは、ドラッグによって生まれた文学が特別に優れていると思ったことがない。コールリッジの夢想も、ボードレールのハシシも、ビートニクのLSDも全くもって予定調和的である。薬で外れるのは社会的な箍にすぎず、その箍がはずれたとて、なお文化圏の外に出た作品をみたことがない。意識のゲートを開いても、創造の構造そのものを拡張するわけではないようだ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 11月22日:火の壺を抱き稲干す縄の里
  • 11月21日:蛇穴に誰が吹きたる口笛ぞ
  • 11月20日:尾花蛸濡るるたましひ灯の方へ
  • 11月19日:おめかづら噛む歯のあひだから太陽
  • 11月18日:曼珠沙華やはらかに首回しけり
  • 11月17日:南瓜切るときの静けさそれでよし
  • 11月16日:秋薔薇やめきめきと鳴る母の胎
  • 11月15日:山粧ふ影燃え立ちて火の鳥に
  • 11月14日:木天蓼を磨く月下の神父かな
  • 11月13日:毒茸や太郎うっとり毒の恋
  • 11月12日:鷹渡る仮面の村の眼を射抜く
  • 11月11日:鵙啼いて銅の太陽落ちにけり
  • 11月10日:地虫鳴く色の祈りを掘り起こす
  • 11月9日:秋鰹叫ぶかたちのまま死せり
  • 11月8日:流れ星ななつの棘を落としてく
  • 11月7日:木賊刈るメトロノームの狂ひかな
  • 11月6日:金の罅もつゐのししが泣いてゐる
  • 11月5日:夜の鞍星のにおいがまだ残る
  • 11月4日:鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る
  • 11月3日:山葡萄くすりともせず熟れにけり
  • 11月2日:鰡の群れ太鼓の胴を泳ぎゆく
  • 11月1日:秋の象うすうくうすうく風を舐め

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