《三月五日》会館を駆くるモツプや風光る

文楽を見る。感情の高揚を託す器はいかにも作り物めいた人形だ。人形の動きには役者のような微妙さはないのかもしれない。だがそれゆえに人形がぎこちなく発する感情は、より純度の高い情念であるような感じがする。
昭和八年三月五日の虚子句日記は「武蔵野探勝会。川崎、安田運動場」。「四ツ手揚げて昼餉にかへる霞かな」。漬け置いた四手網をいったん持ち上げ、昼飯を食いに我が家へ戻る人物。その姿は遠く霞の中へ。

著者略歴

岸本尚毅(きしもと・なおき)

1961年岡山県生。著書に『文豪と俳句』『露月百句』、編著『室生犀星俳句集』『新編
虚子自伝』など。岩手日報・山陽新聞俳壇選者、角川俳句賞選考委員。

 

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バックナンバー

  • 3月5日:会館を駆くるモツプや風光る
  • 3月4日:猫にもの問ふもせんなし梅の花
  • 3月3日:すいと出でて何の茎立かと思ふ
  • 3月2日:腹減らぬままにもの食ふ春の雲
  • 3月1日:吾がための余寒の土筆摘みにけり

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