
《三月三十一日》靴濡らし春のファルーカ帆を立つる
それは長い時間だったのか、それとも一瞬のことだったのか。
気がつけば、さっきと同じ波打ちぎわに、わたしはいた。残骸のような月の果肉が波にたゆたっている。ひとつ、またひとつと、岸をはなれていく。わたしはそれに手を伸ばす。でも、遠ざかるスピードのほうが速い。
「月は逃げ足が速いぞ。油断するな」
その声は波の音と混じり合い、にわかに聞こえなくなった。ずっと前から、くりかえし響いていたのかもしれない。
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それは長い時間だったのか、それとも一瞬のことだったのか。
気がつけば、さっきと同じ波打ちぎわに、わたしはいた。残骸のような月の果肉が波にたゆたっている。ひとつ、またひとつと、岸をはなれていく。わたしはそれに手を伸ばす。でも、遠ざかるスピードのほうが速い。
「月は逃げ足が速いぞ。油断するな」
その声は波の音と混じり合い、にわかに聞こえなくなった。ずっと前から、くりかえし響いていたのかもしれない。
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