《八月七日》蝙蝠と梁をわかちて夜しづか

静物画を見ていると、こっちが静かになるまで許してくれない気がする。物たちが黙って並んでいて、「ほら、こっちは動いてないけど?」と無言でプレッシャーをかけてくる。リンゴも瓶も花も、なんでそんなに落ち着いてるんだ。見る側の私ばかりが呼吸を整え、姿勢を正す。もしかして静かって、けっこう暴力的なことなのだろうか。
帰宅後、ほどよく散らかった部屋に安心した。雑然は、やさしい。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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  • 8月7日:蝙蝠と梁をわかちて夜しづか
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  • 8月4日:海月浮くいにしへびとの袖のごと
  • 8月3日:夕立や水の輪切って踏むペダル
  • 8月2日:夕立やサドルにひとつ空の花
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