《八月九日》昼寝果つ遠潮に名を呼ばれつつ

たまに、本に付箋を貼る。きっちり貼る、ということはない。ルールはなく、気まぐれだ。私は直感優位型であり、一貫性に乏しい。だが、それでも、貼るたびに何かが可視化されている、と思う。
付箋は思考の仮固定装置であり、脳の外部メモリとして振る舞う。どこに貼ったか、なぜそこだったか。あとで見返しても思い出せないが、それもふくめて思考の軌跡である。配置パターンは、可視化された読書中の心拍図だ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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  • 8月8日:靴下の裏も人生なんだ蚊よ
  • 8月7日:蝙蝠と梁をわかちて夜しづか
  • 8月6日:夏帽子ふりかへる日は来ない橋
  • 8月5日:風死せりわたし透明すぎるのか
  • 8月4日:海月浮くいにしへびとの袖のごと
  • 8月3日:夕立や水の輪切って踏むペダル
  • 8月2日:夕立やサドルにひとつ空の花
  • 8月1日:片蔭の客は気まぐれ書生ども

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