《八月九日》長崎忌北九州忌とならざりし痛み新たに低頭すわれは

長崎の原爆投下は当日投下予定の北九州上空が雨雲に覆われていたための投下地変更の結果というのが真実なら、当時北九州門司市の国民学校二年生だった私は死ぬべき生命を助かり、代りに長崎市民が亡くなったことになる。私と同じ二年生も多数いたはずだ。

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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