
《九月十二日》ひぐらしや染料煮立つ鄙の庭
八百屋のレジ脇に「古いレモン無料」とある。試しにひとつつかむと、皺くちゃの皮のくせに、香りだけは図々しく若い。指先に夏の匂いがぬっと移ってきた。家で冷えた紅茶に浮かべたら、カップから真昼の光が立ち上がる。飲み干すころにはもう消えていて、縁に残ったのは、もう戻らない季節の残り香だった。
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八百屋のレジ脇に「古いレモン無料」とある。試しにひとつつかむと、皺くちゃの皮のくせに、香りだけは図々しく若い。指先に夏の匂いがぬっと移ってきた。家で冷えた紅茶に浮かべたら、カップから真昼の光が立ち上がる。飲み干すころにはもう消えていて、縁に残ったのは、もう戻らない季節の残り香だった。
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