実家の前には田圃が広がっていたが、案山子はほとんど見なかった。鳥威が主流だった。山の方の田圃には威銃の音が谺していた。畦を歩けば、ばったが左右から飛んでくる。稲の香が迫ってくる。稲刈りが始まり忙しくなる前の一時の静けさが、好きだった。
●季語=案山子(秋)
著者略歴
山口昭男(やまぐち・あきお)
1955年兵庫県生まれ。波多野爽波、田中裕明に師事。
「秋草」主宰。句集に『書信』『讀本』『木簡』(第69回読売文学賞)
『礫』、著書に『言葉の力を鍛える俳句の授業―ワンランク上の俳句を目指して』『シリーズ自句自解Ⅱ ベスト100 山口昭男』『波多野爽波の百句』がある。日本文藝家協会会員
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