《十月四日(金)》 秋空を仰ぎ両手を広げつつ聖フランシスコ像さへづりぬ
「わたしどもの診断によれば、あなたの病気は不治の病であり、九月の末か一〇月の四日には、あなたは亡くなるでしょう」と告げた。その日は一〇月四日だった。それを聞いてフランシスコは両手を広げ、彼がまもなく『兄弟なる太陽の賛歌』につけ加えることになる言葉を呟いた。「ようこそおいでくださいました、わたしの姉妹である死よ」。
A・トムソン著/持田綱一郎訳『アシジのフランシスコの生涯』教文館
著者略歴
大口玲子(おおぐち・りょうこ)
1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。
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