《一月十五日》首都に雪ふること稀に小雪しょうせつ大雪たいせつかんも死語に近きか

三島の自死の本歌ともなった二・二六事件は昭和十一年の文字どおり二月二十六日。この日東京は大雪だったというが、いま東京周辺には二月はおろか、十二月、一月にも雪が降ることは稀になった。

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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  • 1月15日:首都に雪ふること稀に小雪(しょうせつ)も大雪(たいせつ)も寒(かん)も死語に近きか
  • 1月14日:去年の雪いまは何處の語を吐きし鈴木・日夏も雪ふる彼方
  • 1月13日:老人がうろつくによき陋巷といふが在りけり今は何處ぞ
  • 1月12日:よき衣を着なし庶民を見下して書かず戰後を長く生きたり
  • 1月11日:老ゆること眩しき世あり昭和なる永井荷風老・志賀直哉翁
  • 1月10日:磯に寄る和布拾ひつ山に生ふる野蒜摘みつつ我老いにけり
  • 1月9日:海やまのあひだの逗子に移り棲み三十八年忽ち過ぎぬ
  • 1月8日:あくがるる魂鎮めむと苦しめば家に在りつつ我は旅人
  • 1月7日:不確かの我確かむる或は言ふ我を鎮むるけだし鎮魂
  • 1月6日:何のため歌試むる不確かの我を確かと思ひ做すべく
  • 1月5日:在る在らぬ不確かの我何ゆゑに歌はむとすやその歌や何ぞ
  • 1月4日:我思ふゆゑに在るとふその思ふ疑へばうつつ我在りや無し
  • 1月3日:億兆の遺伝子こぞる船として我在るか我やむざね虚船
  • 1月2日:にひ年と日は改まり我が齢改まらずて直に増えゆく
  • 1月1日:昨日こそ髻髪なりしを八十あまり七のにひ年迎ふる我か

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