茶人から香炉をいただいた。竹でできている。そっと撫でてみると、竹の繊維は髪を一本ずつ梳いたみたいに細くてすべらか、かつしっとりとうるおっている。編み込まれた曲線は、ただの模様とは言いがたい。風がくるくると輪を描きつつ、おのずからその形に収まったのかしらと首をかしげてしまう自然さだ。これを作った職人の技にほれぼれする。竹自身もこんな姿になるなんて、きっと思いもしなかっただろう。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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