夜道を歩く。月はうすぼんやり。ポケットに手を突っ込んでも冷たくて、ああ、これは冬なんだなとわかる。でも別に「冬です!」って感じでもなく、ただそこにあるだけの冬。そういうものが多いな、この世の中には。たとえば、道端に転がるゴミとか、心に刺さったままの棘とか。そこにあるだけで、誰にも注目されなくて、それでも確かに存在してるもの。そういうものに今年は注目しようと思いながら、家路を急いだ。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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