四十年ぶりに新品の自転車を迎え入れた。が、跨るたび胸が痛む。学生のころ乗っていた「ぱおぱお号」のことが思い出されて。おんぼろだった。駐輪場に停めていると、見かねた人が「修理しましょうか」と話かけてくるくらい。防犯登録抹消ずみの破棄自転車のサドルをゴミ処理場から貰ってきて、そっと付け替えてくれた人もいたっけ。新品の自転車は快適。でも「ぱおぱお号」のことは、きっと一生忘れない。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
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