《三月十二日》哭きいさち泣きすさぶむたいろ戀ふとかそに憎まれ姉にうつた

この神、成長して八拳須やつかひげが胸に垂れる程になってからも、亡き母を恋うて泣き暮らし、ために天日てんじつを翳らせ青山を枯らしたというのだから尋常ではない。当然父神には疎まれ、姉神に訴えるのが、その成行き。奈良東大寺二月堂お水取り。

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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  • 3月12日:哭きいさち泣きすさぶ共母戀ふと父に憎まれ姉に訴ふ
  • 3月11日:さすらひの原初に置かむすさのをぞ哭きいさち日を暗めすさびぬ
  • 3月10日:先づされくものは神神 神神のされくゆゑこそ人はさるけれ
  • 3月9日:久方の昼の現にさるくにて足らさればされく真夜も夢見に
  • 3月8日:走り飛ぶもののみならず土深く根づけるものもされく枝葉もて
  • 3月7日:地にけもの空に虫鳥 海に魚いのちといふはされきさるくを
  • 3月6日:彼されき我さるき死ぬるまでされき死にせむのちもさるき倒さむ
  • 3月5日:恭平のされくは歌ひ描き書き土を耕へし海に糸垂る
  • 3月4日:道子・京二されき亡すともされき継ぐ新魂はあり坂口恭平
  • 3月3日:思ひきや木乃伊さびする道子乗せ押しし京二もされき亡すとは
  • 3月2日:木乃伊さぶ道子乗せたる車椅子押しされきけり渡辺京二
  • 3月1日:されきびと石牟礼道子されされて木乃伊さびすや車椅子の上

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