《四月十一日》「ごめん」って言われたあとも咲いていた

靴のかかとが少しすり減っているのに気づいたのは、信号待ちのときだった。なんだか右足だけ、やけに疲れるなあと思っていた。靴を新しくするほどでもないけど、買いに行くのも面倒だ。でも、たぶん近いうちに行く。今日じゃないけど。踏みなおしたとき、少しだけ高さがずれてた。いや、それはさすがに気のせいか。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 4月19日:死にたくはない疲れただけだ花を喰う
  • 4月18日:影うすき物にすがれる春の暮
  • 4月17日:モーターボートのラッパや傾く金属
  • 4月16日:花水木こたえがきれいすぎて消す
  • 4月15日:躑躅見ていたのはたぶん僕じゃない
  • 4月14日:巻かれざる巻物の墨花に濡れ
  • 4月13日:ファドのなき枝のさくらが夜を照らす 
  • 4月12日:逃げ水をまたいだときに鳴る拍手
  • 4月11日:「ごめん」って言われたあとも咲いていた
  • 4月10日:煮豆なるわれにアザーン遠き春
  • 4月9日:アネモネや幻都にひとつ塩の門
  • 4月8日:湯を抱きて眠るネフェルの頬に花
  • 4月7日:桃ひらく古書の行間うっすら雨
  • 4月6日:鳴るまえのベルのようなる麻疹かな
  • 4月5日:馬酔木咲く儀礼の皿に日を沈め
  • 4月4日:沈丁花ひとりごとの向きが変わる
  • 4月3日:木蓮のしろきを淡めミルラ煮ゆ
  • 4月2日:蓴生う起爆せぬ語のピンを抜く
  • 4月1日:蜃気楼メニューは深煎りひとつだけ

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