《四月十二日》逃げ水をまたいだときに鳴る拍手
眠ろうとして目をつむると、今日の出来事が、小さな光のつぶになって、すーっと後ろに流れていった。夕、運動をしているわたしがいて、昼、散歩しているわたしがいて、朝、駅のホームに立っていたわたしがいて、その前に顔を洗っていたわたしがいて、さらに前に明け方の夢のなかのわたしがいた。ときどき起こる、眠るまでの十秒間の、世界の逆再生。これを「ガガーリン効果」と勝手に呼んでいる。なんとなく。
著者略歴
１９７３北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』（第８回田中裕明賞）、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
（ヘッダー写真：小津夜景）
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