《八月十一日》彫るように書く日の青き嵐かな

鉛筆で書いていて、ふと芯の減り方が気になった。朝よりも短くなっている。先が少し曲がっていて、削ってもまっすぐにはならない。字を書くというより、何かを彫っているみたいだった。わたしは字を書いているのか、芯を減らしているのか。鉛筆を回して書くと、少し長持ちすると誰かが言っていた。ほんとうだろうか。ためしてみたら、字がとんでもなく下手になった。寿命と引き換えに、可読性が失われた。おおお、これが本末転倒というやつか。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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  • 8月11日:彫るように書く日の青き嵐かな
  • 8月10日:夏サラダ盛るとはつまり崩すこと
  • 8月9日:昼寝果つ遠潮に名を呼ばれつつ
  • 8月8日:靴下の裏も人生なんだ蚊よ
  • 8月7日:蝙蝠と梁をわかちて夜しづか
  • 8月6日:夏帽子ふりかへる日は来ない橋
  • 8月5日:風死せりわたし透明すぎるのか
  • 8月4日:海月浮くいにしへびとの袖のごと
  • 8月3日:夕立や水の輪切って踏むペダル
  • 8月2日:夕立やサドルにひとつ空の花
  • 8月1日:片蔭の客は気まぐれ書生ども

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