《十一月八日》流れ星ななつの棘を落としてく

今日はひとりで晩ご飯。なにかつくる気にもなれず、近所でホッとサンドをひとつ買った。紙袋を手に海沿いのベンチへ。風が少し冷たい。ソースの匂いが潮とまじる。遠くで波が崩れる音。人の声はない。薄暗いベンチでひとり食べる夕食はさびしいけれど、本来の状態にもどった気もしてほっとする。どこまでもつづく海原を眺めつつ、人生とはこういうものなのだ、と思う。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 11月8日:流れ星ななつの棘を落としてく
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  • 11月5日:夜の鞍星のにおいがまだ残る
  • 11月4日:鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る
  • 11月3日:山葡萄くすりともせず熟れにけり
  • 11月2日:鰡の群れ太鼓の胴を泳ぎゆく
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