《十二月四日》扉絵のごとき静けさ冬の家

扉絵のような午後だった。雲はゆっくりと山を越え、空気のなかにバターみたいな光が溶けていた。わたしがくしゃみをすると夫は少し笑った。鷗は流木を小舟のように扱い、波の上で身を任せている。こういう午後には、だれかが帰ってくる気配と、だれかがふっと離れていく気配が同時にある。季節の変わり目に特有の、静かで、ほどよくあたたかく、かすかな寂しさだ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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