
《十二月四日》扉絵のごとき静けさ冬の家
扉絵のような午後だった。雲はゆっくりと山を越え、空気のなかにバターみたいな光が溶けていた。わたしがくしゃみをすると夫は少し笑った。鷗は流木を小舟のように扱い、波の上で身を任せている。こういう午後には、だれかが帰ってくる気配と、だれかがふっと離れていく気配が同時にある。季節の変わり目に特有の、静かで、ほどよくあたたかく、かすかな寂しさだ。
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扉絵のような午後だった。雲はゆっくりと山を越え、空気のなかにバターみたいな光が溶けていた。わたしがくしゃみをすると夫は少し笑った。鷗は流木を小舟のように扱い、波の上で身を任せている。こういう午後には、だれかが帰ってくる気配と、だれかがふっと離れていく気配が同時にある。季節の変わり目に特有の、静かで、ほどよくあたたかく、かすかな寂しさだ。
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