《十二月二十日》まろきもの月とも日とも知らず冬

先日、外に出るとまんまるの月が出ていた。「わあ、太陽がまんまるだよ!」と言ったら、夫が静かに「月です」と告げる。あ、そうだったと笑って、なのにまたすぐ「丸い太陽だね!」と口が勝手に言ってしまう。こんな取り違え、これまで生きてきて一度もなかったのに、その日だけは夜道を歩きながら何度も間違った。で、翌日ニュースを見ると昨夜はスーパームーンでしたとの由。なるほど。あまりの明るさに脳が勘違いして太陽と言い張っていたのか。脳ってめっちゃ雑……

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 12月20日:まろきもの月とも日とも知らず冬
  • 12月19日:着膨れて声のたまごを抱き歩く
  • 12月18日:冬日差す出やすき場所のうすき影
  • 12月17日:贈られて冬の透明すこし増す
  • 12月16日:節を秘め歩く京都の冬木立
  • 12月15日:冬の鳩ふくらんだまま赤信号
  • 12月14日:霜柱バゲット一本買って出る
  • 12月13日:小春日の誰も読まない雑誌棚
  • 12月12日:あなぐまの夢よりさめて妻の怒気
  • 12月11日:風邪ひいてほめられたことばかり思ふ
  • 12月10日:蜜柑むくみんなの手から夜がこぼれる
  • 12月9日:短日やバターたっぷりのごほうび
  • 12月8日:炬燵から出ずに謝る午後三時
  • 12月7日:寒昴みづのゆらぎの底までも
  • 12月6日:ねずみもちひとは名づけるのが上手
  • 12月5日:冬の波ちょっと小走りになる夕
  • 12月4日:扉絵のごとき静けさ冬の家
  • 12月3日:枯蔦のくるんとしたとこ好きになる
  • 12月2日:落葉ふわっと乗っかってくる上目づかい
  • 12月1日:狐火が遠くて今日の皿が割れ

俳句結社紹介

Twitter