《九月十七日》浴室の衣類乾燥の熱風がほくそ笑むかのやうに頰撫づ

九月に入ってから雨が続く。体もどことなく湿って痛い。

著者略歴

梅内美華子(うめない・みかこ)

1970年、青森県八戸市に生まれる。同志社大学文学部卒。馬場あき子に師事、歌誌「かりん」選者・編集委員。1991年「横断歩道ゼブラ・ゾーン」五十首により第37回角川短歌賞受賞。歌集に『横断歩道ゼブラ・ゾーン』、『若月祭みかづきさい』(第1回現代短歌新人賞)、『火太郎ほたろう』、『夏羽なつばね』、『エクウス』(平成24年芸術選奨文部科学大臣新人賞、第8回葛原妙子賞)、『真珠層』。2012年「あぢさゐの夜」二十首で第48回短歌研究賞受賞。 歌書に『現代歌枕 歌が生まれる場所』『短歌 うたことば辞典』。監修に『ここからはじめる短歌』『美しい日本の言葉辞典』『夏の辞典』。

 

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  • 9月17日:浴室の衣類乾燥の熱風がほくそ笑むかのやうに頰撫づ
  • 9月16日:とろい吾は静かな人で地味な人十割そばにつめたいとろろ
  • 9月15日:火をつけぬまま湿りゆく心ありまた秋が来て水引赤い
  • 9月14日:ボタン押しカップに落ちる水音を胃の底に落とすやうに聞きをり
  • 9月13日:垂れこめてよみうりランドの観覧車下半分が根のやうに見ゆ
  • 9月12日:歩行器のタイヤ持ち上げ渡りきる横断歩道 母との道行
  • 9月11日:人が人をはこぶやさしさ残酷さ保育園からカートが三つ
  • 9月10日:午前二時ひたひたと闇と雨が降る青松虫のこゑもおさまる
  • 9月9日:屋根を打つどしや降りの音に土砂の字を何度も思ひし父の葬儀の日
  • 9月8日:秋の水のせ始めたる露草の青き花びらも溶けゆくごとし
  • 9月7日:上水のほとりに朝は蟬が鳴きゆふべは地の虫に譲りてゐるらし
  • 9月6日:小雨が寄り緑葉が寄るガラス窓 羅漢のやうに歌会につどふ
  • 9月5日:つづれさせきりはたりちやうと呼んでゐる帯に織られし秋の虫たち
  • 9月4日:縮れたる百日紅の花ころがりて曇りゆくなり父逝きし日よ
  • 9月3日:ちよつとした空気の先に現れぬ突発といふ透明な貌
  • 9月2日:新しきレンガの壁に移されし老婦人のごときステンドグラス
  • 9月1日:この世、現世、前世、来世の頻出すわれも用ひて吾亦紅羞し

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ふらんす堂編集日記