《一月十二日》霜夜なり巨人のフォーク月を刺し

夜道を歩く。月はうすぼんやり。ポケットに手を突っ込んでも冷たくて、ああ、これは冬なんだなとわかる。でも別に「冬です!」って感じでもなく、ただそこにあるだけの冬。そういうものが多いな、この世の中には。たとえば、道端に転がるゴミとか、心に刺さったままの棘とか。そこにあるだけで、誰にも注目されなくて、それでも確かに存在してるもの。そういうものに今年は注目しようと思いながら、家路を急いだ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 1月16日:ささがにの糸にかかるは枯れ鏡
  • 1月15日:遠火事や琥珀のごとき夜の甘み
  • 1月14日:かまいたち裁ちて形ぞ何悼む
  • 1月13日:冬銀河めぐりて還る虎の夢
  • 1月12日:霜夜なり巨人のフォーク月を刺し
  • 1月11日:葱抱いて石畳ゆく日暮れ市
  • 1月10日:一月の風を結びし伏籠かな
  • 1月9日:凍てつくや木靴の響き天を割り
  • 1月8日:独楽已みて虚数の軸に宿る影
  • 1月7日:初風が未来のページくしゃくしゃに
  • 1月6日:門松に旅路の砂が舞い残る
  • 1月5日:初芝居幕上がるたび別の街
  • 1月4日:初馬卡龍金箔舌尖摩天楼
  • 1月3日:獅子舞の影が煙草をふかしてる
  • 1月2日:初夢のポケットにある贋の鍵
  • 1月1日:初日の出瓦礫の街に風が吹く

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