
《三月十四日》贋札の一枚まじる辛夷かな
シダラン島は潮の匂いが濃く、風は柔らかかった。空を見上げれば、雲は静かに揺れていた。一日過ごしても、変わった光景は目に入らなかった。翌朝、鳥の声に目を覚まし、ふと池に目をやると、白い花のついた木が朝の光を浴びていた。父はそのひと枝を折り、旅の道連れにすることにした。そしてある夜、ひと夜を過ごした海辺の廃屋の庭に、枝から取った新芽を植えた。運良く根づいた。父はその木がどうなるのかを見届けたくなった。放浪をやめるには、十分な理由だった。
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