《七月三十日》著作者に資料とはぞ読み調べ書ききりしのちはただゴミの山

これは他人事ではない。もの書きの端くれの老境にある私にも切実な問題だ。中伏。

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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バックナンバー

  • 7月31日:ゴミ山の山路に迷ひ老いびとら惑へる見れば虚しとも虚し
  • 7月30日:著作者に資料とは何ぞ読み調べ書ききりしのちはただゴミの山
  • 7月29日:思ひきや死後十七年三万冊なほ未整理に漂はむとは
  • 7月28日:亡き友の草森紳一遺したる三万冊に逢はむ旅立ち
  • 7月27日:朝ひぐらし・夕ひぐらしのその間の昃れすなはち昼のひぐらし
  • 7月26日:蜩の鈴鳴りとよみ涼風の通る夕べはもの思ひもなし
  • 7月25日:夜の秋といふに先立ち夕べなる秋こそあらしひぐらしの刻
  • 7月24日:鳴く蟬を時雨と聞けば汗ばめるこの身も涼し浴みしごとくに
  • 7月23日:鳴き頻きし木の下かげやいつしかも蟬の墓場と踏み処もあらぬ
  • 7月22日:玉をもて蟬を象り死者の舌に載せ甦り願ひしあはれ
  • 7月21日:土闇の七とせののち七日なる命を蟬の來世とせむか
  • 7月20日:土闇の蟬の七とせ豊かなれ出でてののちの七日いかにぞ
  • 7月19日:蟬水煮・蠍水煮とけ並べて賣るをし見れば食は深しも
  • 7月18日:土蟬の水煮壜詰北京の百貨舗に賣る買ひて食はざる
  • 7月17日:土出づる蟬待ちかねて採り集め煎りて食ふちふ旨し旨しと
  • 7月16日:殻脱ぐと脱ぎかねし蟬見る見るに蟻にたかられ身じろぎもせぬ
  • 7月15日:朝まだき殻脱ぐ見るに産むに増し産まるることの苦しみはあれ
  • 7月14日:鳴く蟬と同じき数の鳴かぬ蟬潜む思へば山おそろしき
  • 7月13日:初蟬のはつはつに耳よろこぶに早喧しも山揺するまで
  • 7月12日:雷はたた雨追ひし果て己をも遣らひけれかも今朝蟬を聞く
  • 7月11日:蟬遅き夏あづきなし未きより鳴きしきるなか生ひこし身には
  • 7月10日:夏百日といへど夏にふさへるは晩夏三十日蟬鳴きしきる
  • 7月9日:雨季長く夏短しよ目睫にたちまち盛夏たちまち晩夏
  • 7月8日:夏なり夏真昼なり街なり行き違ふなり群衆その影
  • 7月7日:雷電鳴りとどろくや名残り雲追ひ放ち未練雨逐ひ遣らふ
  • 7月6日:青脳息づける共くらぐらとあをあをと戀ふ真夏のひかり
  • 7月5日:天が下なべて水底あをあをと染まり噞喁ひわれら魚ひと
  • 7月4日:夢に降る雨青しもよ脳さへ心肝さへ染みわたるまで
  • 7月3日:目を覚まし目を閉づる間を降るのみか眠りの中もただ降りに降る
  • 7月2日:あをあをと水降る中の水の人われら行き交ふ水の十字路
  • 7月1日:水の星 水の国なるにつぽんの水の月なりあをあをと降る

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