《八月十日》八月は死者たちの月死をのがれ生きこし者の死を思ふ月

死を逃れ生きこし者は私だ。敗戦後八十年の今も。

著者略歴

高橋睦郎(たかはし・むつお)

昭和12年12月15日、北九州八幡に生まれる。少年時代より詩、短歌、俳句、散文を併作。のち、新作能、狂言、淨瑠璃、オペラ臺本などを加へる傍ら、古典文藝、藝能の再見を続ける。 詩集『王国の構造』(藤村記念歴程賞)、句歌集『稽古飲食』(読売文学賞)、詩集『兎の庭』(高見順賞)、『旅の絵』(現代詩花椿賞)、『姉の島』(詩歌文学館賞)、『永遠まで』(現代詩人賞)、句集『十年』(蛇笏賞、俳句四季大賞)。 歌集に『道饗』、『爾比麻久良にひまくら』、『虚音集』、『待たな終末』、『狂はば如何に』など。 藝術院會員。2024年に文化勲章受章。 (Photo : Jorgen Axelvall)

 

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  • 8月13日:八月の森の暗さは外に差せる光のむごさ飢ゑのすべなさ
  • 8月12日:八月の森暗しもよ先立てる七月 つづく九月よりげに
  • 8月11日:メメント・モリ メメント・モリと誦ふるに顕ちくる森よ八月の森
  • 8月10日:八月は死者たちの月死を逃れ生きこし者の死を思ふ月
  • 8月9日:長崎忌北九州忌とならざりし痛み新たに低頭すわれは
  • 8月8日:広島忌・長崎忌そのあはひなる七日八日をいかに過ぐさむ
  • 8月7日:広島の人柱の上につぽんの秋ぞ立つなる一日つつしめ
  • 8月6日:憶ゆるは未しのち忘れ果つべしとリルケ宣らしぬ風立つごとし
  • 8月5日:全盲の館長所収万巻の億語全知の伝説あはれ
  • 8月4日:仰ぎ見よ国立アルジェンティン図書館長J・L・ボルヘス老いて全盲
  • 8月3日:亡き人を偲ぶ旅三日眼の限り馬鈴薯の花白眩しかり
  • 8月2日:亡き霊を安んぜむにはこの遺品雲散霧消せむには及かじ
  • 8月1日:この徒労旧主望むや恐らくは望まざるべし心せよ遺族

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