
《八月二十八日》窯焚いて梨の匂ひの路地に出る
夜、冷蔵庫の灯りだけを頼りに台所に立つ。水の入ったグラスを片手に、じっと動かない。遠くでこおろぎが鳴いている――と思ったら違った。除湿機の音である。耳をすますと、吸い込まれた水の表面がかすかに震え、「リッ、リッ、リッ」と鈴を振るみたいな音を立てているらしい。暗闇は音の角を削る。除湿機までしっとりした情緒をまとい、こおろぎの身代わりを務めている。
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夜、冷蔵庫の灯りだけを頼りに台所に立つ。水の入ったグラスを片手に、じっと動かない。遠くでこおろぎが鳴いている――と思ったら違った。除湿機の音である。耳をすますと、吸い込まれた水の表面がかすかに震え、「リッ、リッ、リッ」と鈴を振るみたいな音を立てているらしい。暗闇は音の角を削る。除湿機までしっとりした情緒をまとい、こおろぎの身代わりを務めている。
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