
《九月二日》陶土揉む背にしみわたる残暑かな
電車で隣に座った人が、膝の上に細長いカメラを置いていた。黒くて艶があり、潜望鏡のようだ。覗けば線路脇の草むらの向こうに海が見えるんじゃないか、と勝手に期待する。あとで夫にきくと、ただの望遠レンズらしかったが、その「ただ」が惜しい。あんな筒の中には、小さな天気や風ぐらい入っていてほしいし、できれば知らない町の午後なんかも詰まっていてほしい。
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電車で隣に座った人が、膝の上に細長いカメラを置いていた。黒くて艶があり、潜望鏡のようだ。覗けば線路脇の草むらの向こうに海が見えるんじゃないか、と勝手に期待する。あとで夫にきくと、ただの望遠レンズらしかったが、その「ただ」が惜しい。あんな筒の中には、小さな天気や風ぐらい入っていてほしいし、できれば知らない町の午後なんかも詰まっていてほしい。
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