《九月八日》図面からはみ出す丘の秋景色

海辺を歩いていたら、波じゃなく鳥の群れが押し寄せてきた。どっと砂浜を覆い、また引くように空へ舞い上がる。その繰り返しが、紙芝居のページをめくるみたいで、つい最後の場面を知りたくなる。が、あいにく紙芝居屋はいないし、鳥たちは勝手に上演を打ち切って、沖の方へ飛び去ってしまった。あーあ。取り残された観客はわたしひとり。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 9月8日:図面からはみ出す丘の秋景色
  • 9月7日:稲妻や漆の面の笑ひだす
  • 9月6日:透視図に秋の鳥影とどきけり
  • 9月5日:蔦の這ふ待合室で靴脱ぐ子
  • 9月4日:秋の風ローラー跡を撫でて去る
  • 9月3日:秋高し壁ぬけてゆく水の息
  • 9月2日:陶土揉む背にしみわたる残暑かな
  • 9月1日:トランペット色の浜辺や秋の風

俳句結社紹介

Twitter