《九月十日》コインランドリー秋の靴下だけ戻る

バス停で、去っていくバスを見送った。窓の向こうの車内で、知らない人たちが同じ方向を見ていた。視線が揃うと、なにかの合図みたいに世界がひとつになる。その光景を撮りたいと思って、ポケットからスマホを出しかけたが、レンズを向けたら、この合図みたいな世界はきっと消えてしまうと気づいて、やめた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 9月10日:コインランドリー秋の靴下だけ戻る
  • 9月9日:花野より仮面はづして帰りけり
  • 9月8日:図面からはみ出す丘の秋景色
  • 9月7日:稲妻や漆の面の笑ひだす
  • 9月6日:透視図に秋の鳥影とどきけり
  • 9月5日:蔦の這ふ待合室で靴脱ぐ子
  • 9月4日:秋の風ローラー跡を撫でて去る
  • 9月3日:秋高し壁ぬけてゆく水の息
  • 9月2日:陶土揉む背にしみわたる残暑かな
  • 9月1日:トランペット色の浜辺や秋の風

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