《九月二十八日》骨拾ふ指に秋光かたまりぬ

昨日のつづき。北国の人の絵や音楽には、どんなに題材が明るく彩度が高くても、心理的には単色のモノトーンを感じることが多い。シャガール、ムンク、シベリウス、チャイコフスキー。どれも色や音は多彩なのに、心の奥に届く部分は沈んでいて、均質で、明暗が広がらない。ひとつの色調のなかにとじこめられたようなまとまりがある。きっと風土の問題なのだろう。北海道に育ったわたしの中にも、同じからくりがあるような気がしている。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

無断転載・複製禁止

バックナンバー

  • 9月28日:骨拾ふ指に秋光かたまりぬ
  • 9月27日:禾すなはち登る光と海の紺
  • 9月26日:馬蹄図に釘もひかりぬ秋の夢
  • 9月25日:初雁や型に彫らるる水の紋
  • 9月24日:曼珠沙華リャマの影ゆく輪のごとく
  • 9月23日:鳩の影秋天うすく割れにけり
  • 9月22日:死火山の静けさに欠伸して柿
  • 9月21日:クレーンに吊られ骸や秋彼岸
  • 9月20日:母音赤く子音は青し小鳥来る
  • 9月19日:処方薬その名は誰も知らぬ秋
  • 9月18日:亡き首都のかほりを嗅ぎて野分あと
  • 9月17日:古語辞典ひらけば栗のにほひかな
  • 9月16日:事件簿に陽のあたる午後葡萄干す
  • 9月15日:水澄むやねじ切り終へて昼の笛
  • 9月14日:黒塗りの刷毛に月夜茸の匂ひ
  • 9月13日:秋草や背の箔押しを斜に積む
  • 9月12日:ひぐらしや染料煮立つ鄙の庭
  • 9月11日:秋海棠インクの染みみたいな痛み
  • 9月10日:コインランドリー秋の靴下だけ戻る
  • 9月9日:花野より仮面はづして帰りけり
  • 9月8日:図面からはみ出す丘の秋景色
  • 9月7日:稲妻や漆の面の笑ひだす
  • 9月6日:透視図に秋の鳥影とどきけり
  • 9月5日:蔦の這ふ待合室で靴脱ぐ子
  • 9月4日:秋の風ローラー跡を撫でて去る
  • 9月3日:秋高し壁ぬけてゆく水の息
  • 9月2日:陶土揉む背にしみわたる残暑かな
  • 9月1日:トランペット色の浜辺や秋の風

俳句結社紹介

Twitter