《十一月四日》鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る

小説の魅力は作者の意識の偏りや歪みをのぞきこむ感覚にある。どんなに完成度が高くても、著者名がチーム名だったら読者は興奮しない。求められるのは整った品質ではなく、かけがえのない個の魂なのだ。だから裏で何人が手助けしていようとも表紙に名がのるのは一人。「小説とはひとりの脳が燃えた跡」という形式上のお約束こそが、近代文学における小説の一人勝ちを支えてきた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 11月4日:鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る
  • 11月3日:山葡萄くすりともせず熟れにけり
  • 11月2日:鰡の群れ太鼓の胴を泳ぎゆく
  • 11月1日:秋の象うすうくうすうく風を舐め
  • 10月31日:南瓜割る声して天の臍の穴
  • 10月30日:秋の蝶アジアの赤を透かしけり
  • 10月29日:蛇穴に入り革命の夢を見る
  • 10月28日:小鳥といふにはあまりにも濡れてゐて
  • 10月27日:こすもすの中にたゞしい天体あり
  • 10月26日:てにをはを手放す胸や虫すだく
  • 10月25日:転がるどんぐりの声はとりけされない
  • 10月24日:吾亦紅みなぎつて山羊のかほしてゐる
  • 10月23日:山粧ふをりに糸電話のこゑす
  • 10月22日:棉にふれ迷子の犬が雨となる
  • 10月21日:生まれた夜をだれも返さぬ卵かな
  • 10月20日:数ふれば声みな雁となりにけり
  • 10月19日:きつねのかみそり手紙をわすれても咲く
  • 10月18日:アフのこゑ雨にうつろふ柿に似て
  • 10月17日:つぶれたひかりにふれてにんげんがうごく
  • 10月16日:しづかな裏へ短剣かくす秋風や
  • 10月15日:稲妻をまちがへて眼がふえてくる
  • 10月14日:水脈オーみちていさよふとんぼかな
  • 10月13日:声隊ルー鯊のひれにもふれにけり
  • 10月12日:ヴォを呼べば花野は翳のままひろし
  • 10月11日:萩の雨こゑのたましいをかすめる
  • 10月10日:笑ひだす甕のひとくれ鮭颪
  • 10月9日:仮面だけ秋祭りからもどらない
  • 10月8日:こゑが壁ぬけてゆく絵の鈴鹿かな
  • 10月7日:美術展ガラスの笛を抱く子かな
  • 10月6日:糸ひらめく秋の書のいまこの頁
  • 10月5日:虫売のこゑに壊れてしまひけり

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