《十一月六日》金の罅もつゐのししが泣いてゐる

新しい仕事の打ち合わせは迷宮のようだ。あっちへ曲がり、こっちで立ち止まり、行き止まりになってはやりなおす。ところがこのあいだ見つけた新しい書き方のおかげで、道がまっすぐになった。書くことが、風を背負って走る自転車みたいにするすると進む。今日の打ち合わせは、なんと十分で終わった。編集者もびっくりしていたけれど、いちばん驚いたのはわたしだ。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 11月6日:金の罅もつゐのししが泣いてゐる
  • 11月5日:夜の鞍星のにおいがまだ残る
  • 11月4日:鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る
  • 11月3日:山葡萄くすりともせず熟れにけり
  • 11月2日:鰡の群れ太鼓の胴を泳ぎゆく
  • 11月1日:秋の象うすうくうすうく風を舐め

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