《十一月二十三日》あめつちの泡立つごとく濁り酒

文章は旋律でも構造でもなく音響現象なのだと思う。意味は音のように空間で干渉し、語と語のあいだにできるうなりが感情を生む。句読点はブレス、改行は沈黙、文体は周波数帯。整っているようで常に揺れ、読者の体の中で共鳴しながら形を変える。だから書くことは、意味を伝えるよりも、響きを設計することに近い。今日も文章を調律する。わずかな濁りが、かえって美しいコードになることを願いながら――どうでしょうか、この考え方。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

  • 11月23日:あめつちの泡立つごとく濁り酒
  • 11月22日:火の壺を抱き稲干す縄の里
  • 11月21日:蛇穴に誰が吹きたる口笛ぞ
  • 11月20日:尾花蛸濡るるたましひ灯の方へ
  • 11月19日:おめかづら噛む歯のあひだから太陽
  • 11月18日:曼珠沙華やはらかに首回しけり
  • 11月17日:南瓜切るときの静けさそれでよし
  • 11月16日:秋薔薇やめきめきと鳴る母の胎
  • 11月15日:山粧ふ影燃え立ちて火の鳥に
  • 11月14日:木天蓼を磨く月下の神父かな
  • 11月13日:毒茸や太郎うっとり毒の恋
  • 11月12日:鷹渡る仮面の村の眼を射抜く
  • 11月11日:鵙啼いて銅の太陽落ちにけり
  • 11月10日:地虫鳴く色の祈りを掘り起こす
  • 11月9日:秋鰹叫ぶかたちのまま死せり
  • 11月8日:流れ星ななつの棘を落としてく
  • 11月7日:木賊刈るメトロノームの狂ひかな
  • 11月6日:金の罅もつゐのししが泣いてゐる
  • 11月5日:夜の鞍星のにおいがまだ残る
  • 11月4日:鳥兜むらさきの雨ねぢれ降る
  • 11月3日:山葡萄くすりともせず熟れにけり
  • 11月2日:鰡の群れ太鼓の胴を泳ぎゆく
  • 11月1日:秋の象うすうくうすうく風を舐め

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