《一月十二日》坐ることなき冬帽の男かな

「あしらの俳句甲子園」の翌日、大洲をうろつく。寅さんの映画で、嵐寛壽郎が大洲城の元殿様を演じたところだ。晩年のアラカンが「寅次郎君」と呼ぶ声が忘れがたい。
昭和八年一月十二日の虚子句日記は「七宝会。松韻社にて。日比谷公園散歩」。このときの句が「襟巻の狐の顔は別に在り」だ。この句を目にすると、母が若い頃、奮発して狐の襟巻を買ったことを思い出す。小学生だった私はときどき狐の顔をおもちゃにした。

著者略歴

岸本尚毅(きしもと・なおき)

1961年岡山県生。著書に『文豪と俳句』『露月百句』、編著『室生犀星俳句集』『新編
虚子自伝』など。岩手日報・山陽新聞俳壇選者、角川俳句賞選考委員。

 

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バックナンバー

  • 1月15日:寒鴉扉外れしバスの上
  • 1月14日:どら焼と子どもの顔と春を待つ
  • 1月13日:雲遠く映りて甕に寒の水
  • 1月12日:坐ることなき冬帽の男かな
  • 1月11日:枯芝の松葉の向きのよく揃ふ
  • 1月10日:枯芝に枯木はうすき影をひき
  • 1月9日:寒禽や大きな鳥のただしづか
  • 1月8日:冬空の青きところを白き雲
  • 1月7日:見下ろせばそそり立ちをり霜柱
  • 1月6日:水仙や生々しくて抽象画
  • 1月5日:室咲や司書の立居の気配なく
  • 1月4日:福笑ピカソの女とも違ふ
  • 1月3日:正月や映画に泣いて愚かなる
  • 1月2日:読初や在五業平愚かなる
  • 1月1日:初東風や車掌と車掌一礼す

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