《一月二十九日》チュッチュッと舌もて寒の蜆かな

池袋でよく行く店は味噌汁の具がシジミだ。春の蜆も土用蜆も寒蜆もそこで賞味する。三粒四粒しかないときもあるが、舌先を使って大切に蜆の身をせせり食う。
昭和三十二年一月二十九日の虚子句日記は「句謡会 高木宅」。「紫の色の落葉のまじりけり」が目を惹く。単純な句だが「紫の色の」と丁寧に言ったことで、他の落葉と色の違う落葉を見出した心の弾みが伝わる。

著者略歴

岸本尚毅(きしもと・なおき)

1961年岡山県生。著書に『文豪と俳句』『露月百句』、編著『室生犀星俳句集』『新編
虚子自伝』など。岩手日報・山陽新聞俳壇選者、角川俳句賞選考委員。

 

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  • 1月29日:チュッチュッと舌もて寒の蜆かな
  • 1月28日:冬ざれのペンキ匂ふはどこの家
  • 1月27日:本に塵花瓶に塵や日脚伸ぶ
  • 1月26日:冬帽子ふるさとに用なかりけり
  • 1月25日:探梅やすがれながらに石蕗の花
  • 1月24日:老人に寄鍋の海老煮えてをり
  • 1月23日:にほどりや小田急古き型が行く
  • 1月22日:ミツキーの耳を噛みをり炬燵の子
  • 1月21日:風花や雲なつかしく吹かれ消え
  • 1月20日:笹鳴や末社末社にカツプ酒
  • 1月19日:瑞巌寺門前牡蠣の殻が焦げ
  • 1月18日:二三人焼藷買ふの買はぬのと
  • 1月17日:遺構見る我と誰かと冬明るく
  • 1月16日:炉火楽し上へ上へとゆく煙
  • 1月15日:寒鴉扉外れしバスの上
  • 1月14日:どら焼と子どもの顔と春を待つ
  • 1月13日:雲遠く映りて甕に寒の水
  • 1月12日:坐ることなき冬帽の男かな
  • 1月11日:枯芝の松葉の向きのよく揃ふ
  • 1月10日:枯芝に枯木はうすき影をひき
  • 1月9日:寒禽や大きな鳥のただしづか
  • 1月8日:冬空の青きところを白き雲
  • 1月7日:見下ろせばそそり立ちをり霜柱
  • 1月6日:水仙や生々しくて抽象画
  • 1月5日:室咲や司書の立居の気配なく
  • 1月4日:福笑ピカソの女とも違ふ
  • 1月3日:正月や映画に泣いて愚かなる
  • 1月2日:読初や在五業平愚かなる
  • 1月1日:初東風や車掌と車掌一礼す

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