これは抵抗じゃない。そう言い切ると、ほんとうに大事なことを見逃してしまう。わたしは文字を集めるのが好きなのだ。網で獲ったそれがどれだけ美しいことか。陽に透かせば、結ばれあった文字には、数えきれない人生が観察できる。ほんの一瞬、だれかの記憶がそこに浮かび、そしてまた風にさらわれていく。記憶というものが、こうしてどこかに流れていくのなら、わたしはせめて、それをそっとすくいあげてみたい。
著者略歴
小津夜景(おづ・やけい)
1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。
(ヘッダー写真:小津夜景)
無断転載・複製禁止