
《四月三十日》梨の香や触れてはならぬ土しづか
砂の上には、ごく浅い起伏がうまれていた。地形と建物の区別がまだつかない。あれは壁か、崩れかけた天井か、それともただの影か。埋もれたものが、熱も光も持たないまま、空気の濃淡に沿って立ちあがってくる──やや湿った輪郭で。陶片。土柱。断ちきれた支柱の影。風に削られて半分だけ浮いている刻印。朽ちかけた紙の束。たしかに、何かが記されていた。けれど、それはもう「読む」というより、なぞるだけの跡になっている。
無断転載・複製禁止
砂の上には、ごく浅い起伏がうまれていた。地形と建物の区別がまだつかない。あれは壁か、崩れかけた天井か、それともただの影か。埋もれたものが、熱も光も持たないまま、空気の濃淡に沿って立ちあがってくる──やや湿った輪郭で。陶片。土柱。断ちきれた支柱の影。風に削られて半分だけ浮いている刻印。朽ちかけた紙の束。たしかに、何かが記されていた。けれど、それはもう「読む」というより、なぞるだけの跡になっている。
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