《六月三日》風鈴や裏返りゆく紙の町

ページは予想よりもよく燃えた。紙質のせいか、炭化速度が高かった。ページが灰になる瞬間、雨が降り出した。濡れた紙がくすぶる匂いを、今でも時々、夢の中で嗅ぐ。湿気を含んだ火は、燃えきることをためらって、まるで「ここに残っていいか」とでも訊ねるように、白煙を細く引いていた。

著者略歴

小津夜景(おづ・やけい)

1973北海道生まれ。句集に『フワラーズ・カンフー』(第8回田中裕明賞)、『花と夜盗』。エッセイ集に『カモメの日の読書』『いつかたこぶねになる日』『ロゴスと巻貝』。そのほか、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者須藤岳史との往復書簡『なしのたわむれ 古典と古楽をめぐる手紙』。現在『すばる』で「空耳放浪記」連載中。

(ヘッダー写真:小津夜景)

 

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バックナンバー

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  • 6月3日:風鈴や裏返りゆく紙の町
  • 6月2日:籐椅子や風たまゆらのままに在り
  • 6月1日:金魚鉢覗くたびまた変はる顔

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