
《七月二十一日》泉湧くマルセイユには遺書と酒
うちのエレベーターはしゃべる。「5階にとまります」的なことを言う。
「的な」と濁したのは、それがイタリア語だからだ。
イタリア人が多いマンションなので、そういう設定になっているらしいのだが、わたしにはまったくわからない。
なのに、意味不明の言葉で話しかけられるたび、「うむ……」と無意識にうなずいてしまう。
理解より先に、身体が反応している。意味のわからない言語ゲームに、気づかないまま加わってしまっている。
このエレベーター、わたしより、よっぽど他者らしい。
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