《四月十七日(水)》新しい人となるべく食べてゐる新じやが新玉ねぎ春ごばう

野菜を蒸して岩塩やポン酢で食べる。毎日こればかり。一首に入り切らずこぼれてしまったが、春きゃべつもびっくりするほど甘くておいしい。

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

  • 4月30日:子の居ない四月終はりぬごはんには春のわかめのキムチをのせて
  • 4月29日:朗読に「ネブカドネツァル王」と聞くたびに笑つた子を思ひ出す
  • 4月28日:見なくてもつながつてゐるといふことのひと粒ひと粒味はふ朝
  • 4月27日:風光るやうな行き先と聞いてをりゆく春の風頭公園
  • 4月26日:空腹はしんと沈めて春昼を天空のリストランテへのぼる
  • 4月25日:イノシシが通報されつつ行きしとふ川沿ひの道われも歩めり
  • 4月24日:寅子にはいいお父さんがゐたよなあ 幼子のやうに羨むわれは
  • 4月23日:われといふ人間の浅瀬あゆみつつハマシギは深くうつむいてゐる
  • 4月22日:自転車の籠に飛び込みしばらくをツマグロヒョウモン同じ速度で
  • 4月21日:その声を知りたしと願ひたる朝の藤のむらさき喉に垂れて
  • 4月20日:いつぽんの木を抱きしめて立ちつくす人を湿らせゆく春の夜
  • 4月19日:炊き立てのたけのこごはんの上にほそくさやえんどうのみどりの初心
  • 4月18日:「お母様ですか」と訊かれ「はいはい」と引き受けたりし祈りなりしを
  • 4月17日:新しい人となるべく食べてゐる新じやが新玉ねぎ春ごばう
  • 4月16日:春真昼問診視診触診ののちにトントン脚たたかれて
  • 4月15日:メール来て春深まりぬ「短歌日記出した?」と息子に心配されて
  • 4月14日:ひとり居てうるめいわしの丸干しの一尾食べればひとりにあらず
  • 4月13日:米、パスタ、麦茶も減らなくなり今夜息子は何を食べてゐるのか
  • 4月12日:花冷えの宮崎を発ち桜雨降れる夕べの浦上に居り
  • 4月11日:春昼を極彩色の凧あげてゆくこの風は海からの風
  • 4月10日:息子もいま朝の祈りをとなへゐむ同じ言葉で違ふ思ひに
  • 4月9日:子の声で語るイエスよ新入生代表誓ひの言葉のなかに
  • 4月8日:あつさりと息子は居なくなつてなほ犠牲の禁酒の味はひ続く
  • 4月7日:鍵かけてイエスの平和に巻き込まれまいとする夜を桜満開
  • 4月6日:ミサののちしずかにわれのもとに来てかけくれし声の低さを思ふ
  • 4月5日:これ以上ないほどの青さりながら息子の居ない宮崎の空
  • 4月4日:幼子が大人を真似て言へるとき「アーメン」まことにまことに光る
  • 4月3日:息子の居ない宮崎の春の空欄をあふるる言葉のごとくイペーは
  • 4月2日:そして今朝青いギターを肩にかけて息子はこの家を出ていつた
  • 4月1日:春の虹どなたがこんなにはつきりと見せたまふかと水辺に仰ぐ

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