《十一月十日》己が影先に行かせて麦を蒔く

〈蓮根掘る腰に止まりて赤とんぼ 笹谷良子〉昨日の同じ「青」の「選後に」に取り上げられている句。何だと思うだろう。そこを爽波は逃がさなかった。蓮根掘りに飛んでいる時期を外れた赤蜻蛉。人の動きの中で捉えた一瞬を描いた句となっている。この句を書き留めたときの手応えを感得してほしいと。「感得」という言葉が響く。

●季語=麦蒔き(冬)

著者略歴

山口昭男(やまぐち・あきお)

1955年兵庫県生まれ。波多野爽波、田中裕明に師事。 「秋草」主宰。句集に『書信』『讀本』『木簡』(第69回読売文学賞) 『礫』、著書に『言葉の力を鍛える俳句の授業―ワンランク上の俳句を目指して』『シリーズ自句自解Ⅱ ベスト100 山口昭男』『波多野爽波の百句』がある。日本文藝家協会会員

 

 

 

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バックナンバー

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  • 11月10日:己が影先に行かせて麦を蒔く
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  • 11月8日:許されずして石蕗の黄を見てをりぬ
  • 11月7日:厠神八手の花の奥の奥
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  • 11月5日:お十夜のまこと黄色き針生姜
  • 11月4日:口切や竹根の節の隆々と
  • 11月3日:千切のキャベツ大盛文化の日
  • 11月2日:山茶花のもう咲いてゐる散つてゐる
  • 11月1日:茶の花へ月光少ないではないか

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