《十一月二十三日(土)》善長谷教会にキクの亡骸が埋められしこと思ひて海を見き

今思えば、私がコルベ神父を知ったのは遠藤周作の小説『女の一生』を読んだのが最初だった。新聞に連載されていた当時、小学校高学年から中学生になった頃で、読むたびに胸を熱くして一日も欠かさなかった。「一部・キクの場合」「二部・サチ子の場合」からなる長い小説の二部に長崎のコルベ神父が登場し、アウシュヴィッツでの死も描かれていた。再読したい。

著者略歴

大口玲子(おおぐち・りょうこ)

1969年東京都大田区生まれ。宮城県仙台市、石巻市を経て、現在は宮崎県宮崎市在住。1998年、「ナショナリズムの夕立」で第四十四回角川短歌賞受賞。
歌集に『海量ハイリャン』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』、『桜の木にのぼる人』、『ザベリオ』、『自由』、歌文集に『セレクション歌人5 大口玲子集』『神のパズル』がある。「心の花」会員。宮崎日日新聞「宮日文芸」短歌欄選者。牧水・短歌甲子園審査員。

 

 

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バックナンバー

  • 11月23日:善長谷教会にキクの亡骸が埋められしこと思ひて海を見き
  • 11月22日:身代はりの死を死なむとし前方へ一歩踏み出す息子の素足
  • 11月21日:首筋に冬が来てゐて今日母が抱きしめた犬の鼓動を思ふ
  • 11月20日:母として役員として開演を待てりチケットをもぎりにもぎり
  • 11月19日:ステージの上で息子は死ぬらしい 死を見るために夫と連れ立つ
  • 11月18日:「助けて」と口開かむとしたるときみづからの声に目を覚ましたり
  • 11月17日:東京の銀杏狂ほしく黄葉しわたしに何を教へむと立つ
  • 11月16日:きみどりのソラシドエアにうつらうつら歌つくる間に羽田に着きぬ
  • 11月15日:千歳飴のまつしろな袋わたされて息子が描いた預言者エリヤ
  • 11月14日:秋晴れに子らが行く場所もランドセルの色ほどたくさんあればいいのに
  • 11月13日:なぜ人は短歌をつくるか図書室の窓には秋の雲あかるくて
  • 11月12日:会へぬままだんだん遠くなる母の記憶にコスモスまだ揺れてるか
  • 11月11日:着信のルリビタキ鳴いてわれを呼ぶ瀕死のスマホ使ひ続けて
  • 11月10日:われを見る目を意識せり献金箱、ATMの前に立つとき
  • 11月9日:母は子をいかなる響きに呼びにけむ ハビエル城に響きし声は
  • 11月8日:半袖にはおるーディガン 少年は宮崎の秋のみじかさを言ふ
  • 11月7日:小銃携行せずと言へども迷彩のパレードがアーケードを征けり
  • 11月6日:行き交へるシスター若きはポシェットのやうにスマホを斜め掛けして
  • 11月5日:鳥は鳥の言葉尽くして遊べるをそれのみを今朝のよろこびとして
  • 11月4日:銀杏の葉ひとひら帽子に受けとめて心の貧しい誰の幸ひ
  • 11月3日:みづからを愛することの不確かさ不意に蝋燭の火は揺らぎたり
  • 11月2日:夢にわれは柔和なる馬に歩み寄り草ひと束を食ませてゐたり
  • 11月1日:両腕をわれも高く掲げてみたり聖フランシスコ像に向かひて

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